実はAC大好き

2022.10.10
 こんにちは、ネッチ・ジャパンの篠田です。
先週は、ITCC & ITES 2022 Conference (Boston)で大わらわでしたが、あっという間に一週間がたってしまいました。これは、熱伝導率と熱膨張に関する国際会議で2年ごとに開催されるのですが、今年はわがネッチ社(米国ネッチ社、ドイツネッチ本社)がホスト役を務めさせて頂きました。コロナ過で、ぎりぎりまでリモート開催か、対面か決定しかねていたようですが、結局ハイブリッド形式になりました。日本からは、慶應義塾大学名誉教授の長坂雄次先生が渡米されて招待講演を、リモートでは、産総研の八木貴志先生、馬場哲也先生に同じく招待講演を賜りました。厚く御礼申し上げます。日本熱物性学会の方は皆ご存じの先生方ですので、一介の業者に過ぎない私などがいまさら差し出がましいコメントをはさむ必要は無いと思いますが、興味深いのは先生方の講演のテーマは、いずれもマイクロ・ナノスケールの熱物性に関することであることです。  この数年私が一介のサービスマンとして、国内外の研究所に出没しておりますが、これはほとんどが、“パルス光加熱サーモリフレクタンス法”測定装置、NanoTR, PicoTRに関するものです。TDTRと言った方が海外では通りが良いかもしれません。
現場作業を通じて、マイクロ・ナノスケールの熱物性測定のキモもおぼろげながら解って参りました。とくに最近気に入っておりますのはPicoTRなのですが、これには私の熱測定に関するささやかな経験が関係しております。
私と熱測定との最初の出会いは、(磁場中、極低温下での)ACカロリメトリーだったのですが、その基本となるのは、交流の加熱と、温度応答のロックインアップ検出にあります。使用していたのはアナログLCAのPar. Model 124Aで、おそらく低ノイズでは世界最高峰だと思いますが、惜しいかな、制御コードはBCSで、見ていたのは振幅だけでした。薄膜測定の基本として、交流の加熱と、温度応答のLCA測定の経験がある程度あったこと。  次に、ネッチのアプリケーションエンジニアとして、レーザーフラッシュ法の経験を長年積むことができたこと。これは、皆さん良くご存じの通り、パルス状の加熱に対して、温度応答(温度履歴曲線)を非接触で全部計測し、これを解析して熱物性を求めます。  PicoTRでは、周期的にパルス加熱をして、温度応答(温度履歴曲線)を計測するわけですが、周期的な加熱光と、同じ周期の測温光を当てる時間を制御して、レーザーフラッシュ法同様、温度履歴曲線全体を取れるように工夫しているわけです。そのために加熱光に変調をかけて、LCAでデータを取得する、うまいやり方をとっています。
但し、単一なパルスではなく、周期的な加熱に対する“解析解”を初めて与えたという点で、今回の馬場先生のご発表は画期的なものでした。やはり、計測技術において、解析解と、数値解析は車の両輪のようなもので、どちらも大切だと思います。複雑な系に適用できるということで、今後も数値的解法は重要だと思いますが、解析的手法の発展が計測技術の発展に貢献することは明らかです。  TDTRのみならず、今までは、このような手法が発見されていなかったので、周期加熱法では、周期的に加熱しているということで、温度応答を波のように扱って解析解を与え、一定の成果を上げていたのだと思いますが、熱の本質は拡散現象だと思うので、今回の手法の方が物理屋のはしくれとしてしっくりきます。  わがネッチ社も、フラッシュ法のユーザー数が多くなったということで、あぐらをかいてうかうかしていると、いつの間にか取り残されてしまう日が来ないとも限りません。その意味でも、今回のITCC & ITES は私にとっても大変刺激となりました。  ということで、装置の営業そっちのけで、計測技術オタクになりつつある今日この頃ですが、今後とも宜しくお願い申し上げます。
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