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マスクを電鍋で洗浄してみた!その④ マスクって何度くらいで縮むの?


前回、電鍋の温度を調査し電鍋を使った温度の調整方法等を検討しました(前回記事:電鍋の温度を調べてみた)。すみません先に謝っておきます。今回はちょっと長くて難しいです。

 

今回はマスクがいったい何度くらいで縮んでしまうのか調査しました。前回の電鍋でマスクを加熱したところ、130℃くらいの温度であれば外観の変化はあまり確認されませんでした。果たして実際のところはどうなのでしょうか?今回はTMAという専門の熱分析装置を用いて伸び、縮みを計測します。本装置は様々な物質がどのように伸びるかなどを調べる非常に便利な装置です。

早速マスクを短冊状(長さ20mm 幅5mm)に切断し、0.1gという弱い力で引っ張りながら室温(28℃)から180℃まで伸び縮みを計測しました。

 

Fig.1:マスクのTMA測定結果(上図:全体 下図:縦軸拡大)

 

室温から緩やかにマスクは伸びていきます。ほとんど物質は温度をかけると伸びる性質を持っているため、マスクの素材も同様です。この現象は物質によって伸び方は異なるのですが、プラスチック原料であるマスクは非常に伸びやすい性質を持っています。この現象は冷やすと元に戻るのですが、加工の履歴や結晶性などが変化すると元の長さに戻りません。

 

今回のデータでは155℃付近から縮むような傾向が見えています。これはマスクの原料であるポリプロピレンの融解が原因であると思われます。さらにデータを細かく観察すると80℃付近からうねるような挙動を示しています。この現象は非常に複雑ですが、簡単に説明すると熱によって物質が伸びているのと、加工履歴などが解放されたことによって縮んでいる現象が重なり合っているのではないかと思います。

 

このデータだけだとどれくらい縮んでいるか?わかりにくいので、次にマスクの洗浄を模擬し、マスクを110℃で保持し室温に冷却するサイクルを5回ほど実施してみました。

 

Fig.2:30~110℃のマスク膨張収縮挙動(上図:1サイクル 下図:1~5サイクル)

 

1サイクル目のデータを確認すると室温から105.9℃までに1.29%伸びます。さらに110℃付近の保持状態で0.06%縮み、室温に戻すと最初の長さから0.25%縮んでいます。5回のサイクル実験では2サイクル回目以上では温度をかけても元の長さに戻ることが確認されました。

 

そして110℃、130℃、140℃、150℃、160℃での保持を行った後のそれぞれの収縮率を計測しました。

 

Fig.3:各温度の保持後の初期長さからの収縮率(室温比較)

 

またそれぞれの5サイクルでの測定も実施しましたが、2回目以降サイクル回数を重ねても同じ温度プログラムであれば収縮が進行することはありませんでした。
この結果より、110℃という温度であってもマスクは若干収縮することわかりました。また150℃以降に収縮率は急激に大きくなることも確認でき、電鍋の実験で150℃以上になっているマスクが縮んでしまったこととある程度相関関係を確認することができました。

 

ということでマスクが収縮する温度は、

 

…と言いたいところですが、実はこのマスク3層構造のマスクなのです。一般的に市販されているマスク大体3層構造で、外側、フィルター、内側になっており各層大事なのですが、ウイルスをブロックするのはフィルター層だということです。

 

Fig.4:3層構造マスクの層構造

 

ということで、早速電子顕微鏡で外側(ブログ①より)とフィルターの写真を比較してみました。

 

Fig.5:マスクの外側とフィルターの電子顕微鏡写真(×100)

 

「全然違うじゃないかー!!」

実験ふりだしに戻っちゃったのですが…もう一度DSCも測定してみます。

 

Fig.6:マスクのフィルター、外側のDSC(上図:昇温 下図:降温)

 

そうですよね。違いますよね。

しかも、フィルターのみを測定すると60℃付近から開始する発熱挙動が確認されました。ポリプロピレンが溶けている場合はカーブが下向きになるのですが、逆方向にカーブが動いています。おそらくこの細かい繊維状のものが結晶化したのではないかと推測しております。「うーん。全然違う。」

 

しかし興味深いこともわかりました。これらのマスクをDSCの中で溶かしたあと、温度を下げて固めたとき(液体→固体)のDSCのカーブはほぼ同じになりました。もし仮に同じポリプロピレンであっても密度や分子量などが異なれば、カーブが重なることはありません。「そうか、フィルターと外側の原料はおそらく同じものなんだ。」

 

続けてTMAも測定してみます。測定条件は先ほどと同じにしました。結果は先ほどのマスク全体の結果と比較しました。

 

Fig.7:マスク全体とフィルターのTMAの比較(上図:全体 下図:縦軸拡大)

 

DSCの結果と同様にマスクのフィルターは60℃付近から挙動が変わっています。TMAとDSC非常によく相関関係が得られていると思います。これらの結果より、原料は同じ、でも製造過程が全く違うという推測が立ちます。

 

さて本題に戻ってマスク(フィルター)を加熱した際どうなるのか調べてみました。

 

Fig.8:30~110℃のマスクフィルターの膨張収縮挙動

 

65℃付近から0.37%縮み、室温に戻すと最初の長さから1.26%縮んでいます。この結果はマスクを全体的に加熱した時よりも縮む量が大きいです。また5回のサイクル実験では、マスク全体と同様に2サイクル回目以上では温度をかけても元の長さに戻ることが確認されました。

 

Fig.9:マスク全体とフィルター 各温度の保持後の初期長さからの収縮率(室温比較)

 

そしてフィルターのマスクのみも110℃、130℃、140℃、150℃、160℃での保持を行った後のそれぞれの収縮率を計測しました。
フィルターの素材は全体の収縮率に比べて大きいことが確認されました。また収縮する温度の変曲点はおそらく150℃付近であることも確認されました。

 

というわけで外側の素材の見た目が無事でも一番大事なフィルターの素材が先に収縮してしまうため、フィルターの素材の網目構造が失われている可能性があります。(1%程度の収縮を見た目で判断するのは難しいと思いますが…)

 

最後に電子顕微鏡での各温度8分加熱後の写真を確認します。

 

Fig.10:マスクフィルター 各温度保持後の電子顕微鏡写真

 

繊維の太さが高温になるほど太くなっていっているような気もします。また繊維間の空間の密度も狭くなっているような気もしますが、正直よくわかりませんでしたが、網目構造は維持していることが確認されました。

 

今回の結果をまとめます。

①マスクが大きく収縮する温度はおよそ150℃付近から

②3層構造マスクのフィルターの層は網目構造が細かい

③マスクフィルター層は65℃付近より約1%程度収縮する

④マスクフィルターが大きく収縮する温度は150℃付近から

⑤マスクフィルターの網目構造は150℃までは構造を維持

⑥温度をかければかけるほどマスクは縮む

 

というわけで電鍋(加熱)での洗浄は過度な温度をかければかけるほどマスクは収縮しますが、フィルターの不織布は約65℃で収縮を開始します。この収縮(約1%)がどの程度ウイルスのブロックに寄与するかは不明ですが、マスクの熱に対する特性は調査することができました。今回のマスクは市販のマスクですが、メーカーごとにこの特性は若干異なってくるのではないかと推測しております。

 

最後に大阪府立大学の秋吉先生に当ブログの紹介いただきました。(http://bigbird.riast.osakafu-u.ac.jp/~akiyoshi/Works/Anti-Covid-19.htm

オーブンの予熱機能を用いた熱による不活性化の方法も記載されております。これは最高です。先生からアドバイスいただいており、私も同じことやろうとしたら妻から「うちの家電は実験器具じゃない!!」って猛反対いただき戸惑っていました。先生ありがとうございます。

ほかにもウイルスに対する知見などたくさん掲載されております。ぜひ参考にしてみてください。

 

ということで過度に温度をかけるのはあまり意味なさそうです。皆様も試みる際は温度のかけすぎには注意しましょう。

次回はマスクの供給が安定しないようであれば、熱による不活性化以外の方法についても検討してみようかと考えております。

 

 

 

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その① 耐熱温度は何度?
その② 電鍋でマスクを加熱してみた
その③ 電鍋の温度を調べてみた
その④ マスクって何度くらいで縮むの?

 

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